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全会一致夢日記Vol.29|「豆と、沈黙」

date:2025/10/13

【 夢のプロンプト】
1年前からコーヒーにどハマりしている
深煎りの豆をカリタのミルで云々かんぬん
ペリカンポットで云々かんぬん


音楽と同じだ、と思う。
まず、静寂がなければ、良い音は生まれない。だから、僕はまず、オフィスの中の音を消す。
空調を止め、パソコンの通知を切り、すべてのノイズをゼロにする。

次に、豆を選ぶ。コロンビアの深煎り。黒く、硬く、美しい。まるで、よく磨かれたオブジェのようだ。
これを、カリタのミルに入れる。ハンドルを回す。ゴリ、ゴリ、という、硬質な、しかし心地よい音が、静寂の中に響く。
これは、パーカッションだ。これから始まるセッションの、最初のビート。

挽き終わった粉を、ドリッパーにセットする。そして、ペリカンポット。
この、細くしなやかな注ぎ口でなければだめなんだ。まるで指揮棒のように、湯の量を、その軌道を、完璧にコントロールする。

「…」

誰かが、僕の背後で息を殺している。猫村くんだ。
彼は、僕のこの儀式を、邪魔することなく、ただじっと見ている。
まるで、コンサートホールの最前列に座る、たった一人の観客のように。

僕は、一滴、また一滴と、湯を落としていく。それは、ピアノの鍵盤を、一つ、また一つと、確かめるように押していく作業に似ていた。
そして、すべての音が重なり合った時、完璧なハーモニーが、つまり、一杯のコーヒーが完成する。

この、誰のためでもない、たった一杯のコーヒーを淹れるための、完璧な沈黙と、完璧なプロセス。
僕にとって、仕事とは、そういうものなのかもしれない。



小熊:「…今日の夢は、なんだか音が聞こえてくるようだったな。静かなのに、騒がしい」
猫村:「ええ。たくさんの沈黙と、少しの音。それだけで、音楽は成立しますから」
小熊:「その言い方は、まるで今日の文体そのものじゃないか。それで、この曲を選ぶのか」
猫村:「ええ。静寂の中にこそ、本当のメロディがある。この曲が、それを教えてくれます」
♪ 『Merry Christmas, Mr. Lawrence』 – 坂本龍一

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